
要 旨
呉氏文明は呉山に発し、古代勾呉の地に根を下ろし、二千余年の歳月を経て、その文脈絶ゆることなく今日に及ぶ。
西漢における劉濞の受封、三国時代の孫呉建国、東晋の呉国設置、五代十国期の南呉建国を経て、更に日本・越南・馬来に及ぶ呉氏諸政権に至るまで、呉文化は山海を越え、東亜世界に広く伝播し、深き影響を与えた。
本篇は史実を経となし、文明を緯となして、東亜における呉氏諸国の興亡盛衰を叙述するものである。併せて、呉氏先賢が疆土を開き、国家を建て、文教を興し、民生を安んじた歴史的功績を明らかにし、王朝は興亡を重ねるとも、文明の命脈は絶えることなく、国統は世々相承け、文化の光は永く東亜を照らし続けたことを論証する。
呉国本紀(上)
――太伯より孫呉に至る――
呉邦肇興し、源流悠遠なり。
勾呉建国は、実に太伯に始まる。
周礼を継承し、王道を江南に弘め、
文明東漸して、諸邦その化を蒙る。
王朝興替し、国号しばしば改まると雖も、
国統相承け、未だ嘗て中絶せず。
西漢天下を定むるや、劉濞封ぜられて呉王となる。
広陵に建邦し、江東を雄視す。
塩鉄を興し、商賈四方に通じ、
水利を修め、百工並び興る。
七国兵を挙ぐるに及び、漢軍これを討平す。
呉国遂に廃され、国祚ここに一たび絶ゆ。
三国鼎立するや、孫呉勃然として興る。
建業に都し、孫権帝を称す。
北に魏を拒ぎ、西に蜀に抗し、
江東を鎮め、天下を三分す。
屯田を設け、農桑を勧め、
河渠を修め、水利大いに開く。
舟師縦横し、海道四通し、
商旅絶ゆることなし。
百姓富み、倉廩充ち、
文教大いに興り、礼楽再び盛んなり。
江東の基業、南土第一に冠たり。
孫呉の治世、実に江南文明の隆盛を開く。
呉国本紀(中)
――東晋・南呉――
東晋南遷するや、咸和改制す。
司馬氏呉を封じ、郡を昇して国となす。
中原の士族相率いて南遷し、
衣冠礼楽、江左に復び興る。
詩書礼楽ここに盛んに、
文章典籍、世に大いに伝わる。
百年余を経て、南朝復び郡となすと雖も、
国号は廃れ、その統緒なお存す。
五代乱離し、群雄並び起こる。
楊氏淮南に拠り、南呉を再建す。
天祐二年(九〇二)、正式に建国し、
国祚三十五年、東南に雄拠す。
疆域を保ち、人民を安んじ、
文教を崇び、儒学を奨む。
農桑よく興り、江淮の沃野再び豊穣たり。
市肆繁栄し、百工競い起こり、
上下和睦し、四民その業を楽しむ。
南呉の治、実に乱世の中の昇平たり。
呉国本紀(下)
――日本・越南・馬来――
東瀛九州に至り、呉裔邦を開く。
皇統相承け、綿々として今に及ぶ。
礼儀制度は華夏の典に承け、
衣冠文物は江東の風を伝う。
皇統千秋に続き、万世その統を奉ず。
王室世々その大統を守り、邦家久しく安し。
交州の地に至りては、呉権国を建つ。
九三九年、自ら南疆に立ち、
白藤江の一戦において外敵を攘い、
百越の旧地再び興る。
呉朝ここに肇まり、南方に威を振るう。
然れども国祚二十六年にして、
遂に離乱に帰す。
南洋馬来に至り、呉氏再び邦を建つ。
一七七五年、呉譲王を称す。
華人の王国、海隅に威を布き、
四州八府を統べ、商航を制す。
世襲八代、国祚百二十九年、
百業興隆し、四海安寧たり。
後に欧州列強東漸し、王朝遂に終焉を迎う。
然れども遺風なお存し、
芳名史冊に垂れて久し。
史論
――歴史的意義――
呉国の興るや、その源は中土に発し、
その化は海外に広がり、恩沢は諸邦に及ぶ。
或いは王朝を建て、或いは帝業を輔け、
或いは文教を興し、或いは工商を啓く。
その功は一国に止まらず、
その徳は万民を潤す。
王朝には興亡あり、国祚には盛衰あり。
然れども文明の命脈は絶ゆることなく、
文化の光輝は世々相承けて窮まりなし。
嗚呼、呉風浩蕩たり。
山河を越え、海岳を渡り、
東亜文明を潤し、万世に光を同じくす。
後の史家これを論ずる者、
宜しくその一時の興亡を見るのみならず、
その文明の継承と東亜に及ぼしたる功績とを察すべし。
これ実に呉国史の大義にして、千秋不朽の精神なり。
太史呉曰:
万邦の史を考え、華夏の源を溯り、
文明の統を継ぎ、天下の道を明らかにす。
夫れ王朝は興るあれば、必ず替わるあり。
疆域は得るあれば、また失うあり。
然れども、国は亡ぶべしと雖も、文明は亡ぶべからず。
政権は易わるべしと雖も、道統は絶ゆべからず。
是の故に、呉氏の伝わる所以は、
独り城郭疆土に在るのみにあらず。
殊に礼楽文章に在り、
また帝王将相に在るのみにあらず。
殊に教化をもって民を育むに在り。
さらに一邦一域に限るのみにあらず。
その徳沢は東亜に及び、諸邦を潤す。
呉国の史を観る者は、
宜しくその文明を観るべし。
呉氏の功を論ずる者は、
宜しくその徳業を論ずべし。
文明の存する所以は仁義に在り、
国家の立つ所以は民生に在り。
苟しくも徳を崇び、賢を尚び、
学を興し、教を重んずること能わば、
千載を経ると雖も遺風なお存し、
万世を歴ると雖も国脈永く伝わらん。